「…ねえ、私をあなたたちの世界に連れてってよ」
「は?お前、なに言ってるんだ。話を聞いてたのか?」
「あのね、バカにしないで。ちゃんと聞いてたわよ!」
私の申し出に怪訝そうな顔をするレン。
最初の優しそうな態度はどこに消えたわけ?
なんとなく、この人の知っている私とは切り離されたような気がして、少しだけ落ち込む。
落ち込む必要なんてないのにさ。
だって少しだけ、この人にそんなにも愛される私の知らない“私”が羨ましくなっちゃったんだもん。
「もしかしたら思い出すかもしれないでしょ。私だって、なんだかこのまま思い出さないのも気持ち悪いし」
「だからって、危険なんだよ!人魔はまた姿を消したけど、いつまた襲ってくるかわからないし。何度も、紗南ちゃんは死にかけてるんだよ!」
ずっと黙って見守っていたミナトがそう叫んだ。
「なによ、最初連れ戻すつもりで来たんでしょ?今更なんなの」
「そうだけど…」
「それにさ、その人魔って敵も、追い返した私がまた戻ってきたら動揺するんじゃない?そこをつけば、捕まえるなりなんなりできるかもよ」
「そんな、囮みたいなこと…」
「私の事、利用すればいいじゃん。囮にでもなんでもしたらいいよ」
危険な場所に行くって私が決めたんだから。
それくらいの覚悟はできてる。
それに、私だって文句の一つくらい言ってやりたいのよ。
勝手に私の思い出を消すなって。