どれほど時間がたったんだろう。
あれきり仁は戻ってこない。
この薄暗い部屋の中は時間がわからなくてどれくらい時が流れたのか把握できない。
レンは無事だろうか。
みんな、心配しているかもしれない。
仁がどうしてこんなことをするのか、その理由がわかっても、止める術なんてない。
他にも、飛ばされていた人がいたなんて。
救いの姫と呼ばれていた人だけじゃなかったんだ。
運よくルネス王国の王族に見つかった人は、私みたいに救いの姫として讃えられる。
でも、そうじゃない人は……。
仁の母親のように悪魔にさらわれてはいないにしても、誰も知らない世界で生きていくのは苦難の連続だろう。
救いの姫として救われた私でさえ、心細さを感じない日はなかったんだから。
そして、そんな母親を側で見ていた仁の気持ちは。
カツカツカツ…
足音が近づいてくる。
それはきっと仁のものでまっすぐと私の方へ向かってきている。
「あれ、食べなかったの?」
私に近づくや否やそう口にした仁の視線は置き去りにされたパンとスープへ注がれていた。
「…食べられるわけないでしょ」
「あ、そっか。ごめんね」
さっき、私の首を絞めていた仁はすっかり前の、冷静な仁に戻っていた。


