「母が飛ばされたのは、不運にも悪魔の大陸だった。悪魔に見つかり手籠めにされた母は、…俺を身籠り生んだんだ」

「…」

「母は、いつも泣いていた。同じように飛ばされてきた人間は、救いの姫だと崇められ、一国の王と結婚し裕福な暮らしを約束されていた」





仁の言葉が重くのしかかる。
同じ地球で生まれた人間なのに、飛ばされた場所によって違ってしまう双方の人生。
どれほど悔しかっただろう、憤りを感じただろう。




「なにが救いの姫だ!ただ地球から飛ばされてきただけで、そんな生活が確立されるのなら、俺の母はどうなるんだ!どうして、こんな目に遭わなきゃいけないんだ!」

「……っ」

「泣くな。同情なんてされたって、惨めなだけだ」




いつの間にか溢れだした涙。
泣くなと言われても、自由を奪われた手で拭うことはできない。




「お前だってそうだ、大して力もないくせに王妃と呼ばれていい気になって」

「私は…」

「王妃になりたくない?なりたくてもなれずに死んでいった母はどうなる?」





知らなかった、じゃすまされない。
そんな悲しみが渦巻いていたんだ。

仁が纏う悲しみは、そこからだったのね。




「ごめんなさい…。あなたの苦しみに、気づいてあげられなくて…」

「は?なんだよ、いきなり王妃ぶるなよ!」

「わかってる…、私が、王妃失格だって…」




王妃になったのは、レンの側にいたかったから。
そんな理由なんだもん。