翌朝、イーゴリに無理矢理狩に連れ出されたヴァジムを見送ったエーヴァは残った子供達の相手をしながら考えていた


(ヴァジムには皆を纏める能力以外に、もう1つの顔があるのかも知れない

もしかしたら、それはこの世界を変えてしまう程の…)


「エーヴァ?」


愛らしい笑顔で少女の顔を覗き込んだのはナージャだった

その笑顔は眩しい太陽の様で、この辛く苦しい生活を照らしてくれる唯一の癒しである

しかし今は素直にそれを受け止められない自分がいた

何故ならば、戦いが始まればもう二度と逢えなくなるかも知れない

マカロフ経典に参戦を許される年齢は12歳以上

それ以下の子供達を残してこの子達は生きていけるのだろうか?

狩も少し教えたくらいなのに


「…エーヴァ?」


意思と反映して溢れ出した涙は止まる事を知らず、彼女が気になって集まった子供達は無邪気なまでにエーヴァの体を擦るのであった

その時、スモール・バックヤードの石の扉から凄まじい音がした

錆びた鍵は無惨にも壊され、粗末な扉は粉々に辺りに飛び散った

振り返ったエーヴァは腰の小刀を手に持つが、その目の前の事態に、綿の様に崩れ落ちた

子供達の悲鳴は断末魔の様に悲痛であった



「…………」


その頃、森を進んでいたヴァジム達は妙な違和感に足を止めていた

生い茂った草の上に横たわるのは人間である

しかしその首から下には噛み千切られた跡があり、血の殆どは無くなっていた


「…体の柔らかい部分だけが切り取られてる
それに血も」

「ヴァ、ヴァジム…!」


怯える仲間を宥める事態ではない事を把握したイーゴリは、鬼の形相でヴァジムを振り返った


「ヴァジム!」

「あぁ、これは共食いの仕業だ
血痕が森を抜けて町に出ている

…エーヴァ達が危ない」