その日、西北部に位置する国で、一人の淑女から幼き2つの命が誕生した

黄金色に輝く髪と、澄んだ碧色の瞳を持つ一卵性双生児の子供はイワン、ミハイルと名付けられた


―――一か月後 ダウェール産婦人科


「…おい、これで一体何人目だ?」

「うちだけでも50は越えたぞ」


医師が茫然と立ち竦む新生児室には、双子の赤子達が駒のように並べられている

以後100年間続く¨双子の誕生¨はその国を大きく揺るがした




――――100年後


閑散とした下町に一人の少年が、自分よりも大きな木材を担いである場所へと向かう

向かう場所はスモール・バックヤード【小さな裏庭】である


「開けてくれ!」


木材の重さに耐えきれず膝を震わせた少年が、スモール・バックヤードの戸口を叩く

粗末な石の扉から顔を出した6歳くらいの少女は、少年を確認すると嬉しそうに笑った

するとその少女の背後から細身の青年が続いて顔を出し、小さな少女の肩を掴んだ


「ナージャ、勝手に開けたら駄目だろう?
大人だったらどうするんだ」

「ロマン!
もう駄目だ…っ!」

「え…うわっ!?」


ガタガタッと、木材が地面へ叩き付ける様に落ちると

少年は限界を越えたかの様に肩をぐるぐると回した


「…頼むよ、ドミートリィ
後少しだったのに」


そばかすが特徴の、ドミートリィと呼ばれた少年は歯茎を剥き出して笑う

それに呆れながら息を吐いたロマンと言う青年は、細長い手で落ちた木材を拾い上げた

平謝りするドミートリィは少女のナージャを扉の中へ示唆し、ロマンが後を追ったのを確認してから周囲を満遍なく見渡した


「…右よし左よし、前方よし」


後を付けてきた者がいないかの指差しを怠らずに注意を払い、ドミートリィも扉の中へと続く

しっかりと閉めた扉に付けた鍵は錆び付き、少し力を込めれば壊れてしまいそうな程だった


「…これじゃあ簡単に浸入されちゃうよな」

「ドミートリィ!
何やってるんだ、早く!」