彼と私と秘密の欠片



それから、何回もキャッチボールをした。


ちゃんとした会話は少なかったけど、伸び伸びと楽しげな慶太君を見ることができて、楽しかった。


それにしても、流石に暑いわ。


啓太君が投げたボールをキャッチして、私は額ににじんできた汗を手の甲で軽く拭った。


「慶太くーん。ちょっと休憩しよー」


「えー!」

慶太君からは、意外にも嫌そうな声が返ってきた。


「いいじゃん、ちょっとだけ。慶太君も疲れたでしょ?」

私はそう言って、荷物を置いたベンチに向かった。


「なんだよ。だらしねえな」

慶太君は、大人ぶった口調で言う。

なんだよ、五歳児のくせに。


「まあ、慶太君も座んなよ。慶太君だって休憩しないと疲れるでしょ」

私はベンチに座って、隣に慶太君が座るスペースもつくった。


「しょうがねえなあ」

そうやって呟きながら、慶太君は私の隣に座った。


慶太君、相変わらず言い方は生意気だけど、行動はいつになく素直じゃん。

やっぱり、キャッチボールを通して、心開いてくれたってこと?


「……って、慶太君、結構汗かいてるじゃん。やっぱ疲れたんじゃないの?」

慶太君の額には、粒上の汗が浮かんでいて、それが頬の方にも流れていた。


「そんなことねえよ」

慶太君は手の甲やTシャツの裾でその汗を拭った。


「ああ、ダメだよ。ちゃんとハンカチで拭かないと」

私はハンカチを取り出そうと自分の鞄に手を伸ばした。

……そこで鞄と一緒においていた紙袋に目が行く。


「あっ!」

そうだ、私、ドーナツこんなところに置きっぱなしだった!

めちゃくちゃ直射日光当たる場所だけど……まあ、大丈夫だとは思うけど……


「なんだ、それ」

慶太君が膝に置いた紙袋を覗き込んできた。


「ん? これ? ドーナツだよ。慶太君が食べるかなーって思って作ったんだ」