彼と私と秘密の欠片


慶太君がボールを拾って戻ってきた。

私の方にボールが返ってくる。また私の前でバウンドして転がったボールを拾った。


「よし! もう一球!」

今度はもっと注意して、慶太君が取りやすいだろうというボールを投げた。


さっきよりもゆるやかに孤を描いて、慶太君に向かっていく。


慶太君はボールを必死に目で追いかけ、グローブを小さく左右に振っている。


「あ……」

ボールがグローブの先に当たって慶太君の前に落ちた。


「惜しい! でもちゃんと止めたじゃん!」

慶太君、ちゃんとボールを見るってことは出来てる。二度目でグローブに当てるぐらいまでになるなんて、たいしたもんだ。


落ちたボールを拾い、慶太君は私にボールを投げ返す。


飛んできたボールは、今度は1バウンドしただけで私のもとに届いた。

さっきより確実に投げれるようになってる。


「次行くよー!」

ボールを取ってそう言うと、慶太君は準備万端だった。


慶太君にむかって、三球目のボールを投げた。

さっきと同じように、慶太君は必死にボールを目で追って、ボールの落ちる位置に動く。


……あ、いい感じじゃない?

こっちから見て、慶太君はなかなかいいところに動いてる。


本当に、今度こそ――


パンッ……


気持ちいい音がした。

地面にボールは落ちていない。

慶太君は目を丸くして自分のグローブを見ていた。


「やった……やった! 慶太君ナイスキャッチー!」

思わず私は叫んでいた。


「やるじゃん、慶太君!」


その時、こっちを向いた慶太君の顔が、嬉しそうに綻んでいるのが見えた。


子供らしい、無邪気な、きっと、慶太君の本当の顔……