「よし! じゃあ、慶太君。今度はちゃんと私とキャッチボールしよう!」
私はそう言って、慶太君から離れてキャッチボールに十分じゃ位置に立った。
慶太君は、ただ目を丸くしている。
「せっかくいいグローブ持ってるんだもん。投げるだけじゃなくて、取ってみようよ。絶対にその方が楽しいよ」
流石にこれは、積極的すぎたかな。
でも、せっかく仲良くなれそうな、慶太君が心を開いてくれそうなきっかけが見つかったんだ。
ドキドキしながら、慶太君がどうするかを待った。
また、無視されるのかな……それとも……
次の瞬間、慶太君がまっすぐにこっちを向いた。
そして、左足を一歩前に踏み出して、モーションに入った。
ボールが、私の方に向かって飛んでくる。
まだ一人では少しぎこちないフォームから繰り出されたボールは、私の二メートルほど前で小さくバウンドして、私の前まで転がってきた。
返ってきた。慶太君の返事。
慶太君が何を思ってそうしたのかは、私には分からないけれど、でも今までとは格段に違うということは分かる。
それが、とても嬉しかった。
私は、足元に転がったボールを拾った。
「よし! 行くよー!」
慶太君に向かって、ボールを投げ返した。
慶太君の高さに合わせた、低めの緩いボール。
向こうで、慶太君はグローブを顔の下まで上げて、ボールを目で追っている。
もしかして、初キャッチかな?
「あっ……」
ボールが慶太君の頭上を越えて、その後に慶太君はグローブを頭上に上げた。
「ごめん、慶太君! ちょっと遠かったー」
ボールを取りに行く慶太君の背中に私は叫んだ。
ちょっと適当に投げちゃったかもな……
今までは、大体ある程度できる人とやってたから、ちょっとぐらいミスしても相手がカバーしてくれてたけど……
流石にキャッチボールしたことない五歳の子には無理だよね。反省。


