「なにすんだよ!」
びっくりした様子で慶太君は私を見上げた。
「だーかーらー。こう、左を前にして、右を後ろにするの」
「はなせよ! さわんな!」
後ろから慶太君のフォームを直そうとする私に、慶太君は抵抗する。
……ていうか、これじゃ本当に私が不審者みたいじゃん!
「一度だけ。騙されたと思って私の言うとおりにやってみて。ほら、ボールの持ち方も。こんなしっかり握るんじゃなくて……」
慶太君はめちゃくちゃ嫌がってるけど、それでもまだ子供だから、私の力が力は強い。
後ろから慶太君を抱き込むようにして、手に手を添えてボールを握らせて、フォームの指導をする。
……今、周りに人がいなくてよかった。
この状態を見られたら完全に不審者だし。
「いい? ボールを投げる時に、左足を一歩踏み出すの。腕は、肘を先に出して……こう。分かる?」
実際に慶太君の体を動かしてみて、尋ねる。
だけど、慶太君は反応を返してはくれない。でも、抵抗は弱くなった。
「じゃ、投げてみよ」
また慶太君からの反応は無かったけど、私は慶太君の体を補助しながら、ボールを投げるモーションをさせた。
左足を前に出して、腕を大きく振った。それと同時にボールがフェンスに向かってとんでいく。
――カシャン!
さっきまでより強く、大きな音を立ててフェンスに当たった。
これは、さっきより早く、そして飛距離のあるボールを投げられたということ。
それは慶太君にもなんとなく分かったようで、慶太君は自分でも驚いた顔をしていた。
「おー! いい球投げたじゃん」
私がそう言うと、慶太君は一瞬顔を緩めたけど、私と目が合うと、すぐに顔を引き締めた。
……全く、素直じゃないんだから。


