「そっか。おじいちゃんとキャッチボールするの?」
今度は何の反応もない。
「あ、それともお父さんとかな?」
続けて言うと、慶太君は首を横に振った。
「……とうちゃんもじいちゃんも、しごとがいそがしいから」
「あ、そっか……」
誠司さんは職業柄忙しいし、剛司さんも、この間行った時にも休日出勤だったみたいだから、あまり時間はない人なのかもしれない。
……何か、暗くしちゃった。
しかも、何を言ったらいいのか思い浮かばないし。
沈黙のまま、慶太君はまたボールをフェンスに向かって投げた。
慣れてないであろうそのフォームは、ぎこちない。
ぎこちなくて……気になる。
「ねえ、慶太君」
慶太君がボールを拾ったところで声をかけると、慶太君はこっちを向いた。
「ボール投げる時にね、足、そろえるんじゃなくて左足を前にするといいよ。そしたらもっと強く遠くまで投げられるから」
気になったところをそのままアドバイスする。
だけど、慶太君はじとーっと私のことを見てくる。
うん。多分『何でお前にそんなこと言われないといけないんだよ』って思ってるんだろうな。
「あのね、私、ソフトボールやってたことあるからね、ボールの投げ方には自信あるんだよ」
これは本当。
私は中学、高校とソフトボール部に入っていて、両方ともレギュラー入りしてた。
とはいっても、強豪校ではなかったから、めちゃくちゃ上手いとはいえないかもしれないけど……
それでも基礎はちゃんとしているつもりだ。
「あ、ソフトボールって知ってる? えっと……野球の友達みたいな感じなんだけど……」
きょとんとしている慶太君にそう説明するけれど、分かってくれたかな……
幼稚園児って、どれくらいの物事を知ってるものなんだろ。
……なんて思ってる私をおいて、慶太君はボールを投げようとする。
私の言ったことは完全無視な、今までどおりのフォームだ。
私は近くにあったベンチに荷物を置き、すかさず慶太君の後ろに立って腰を屈めた。
「だからね」
後ろから、慶太君の腕をつかんだ。