カシャン……



カシャン……


そんな音が、スローペースで繰り返されていた。


公園で、慶太君が一人でキャッチボールをしていた。


いや、一人だったらキャッチボールっていわないか。

この公園に、丁度いい壁がないからか、公園を囲っているフェンスに向かって投げている。


でも、フェンスだから投げても跳ね返ってくることはなく、フェンスの下に落ちて転がったボールを拾いにいき、また離れたところからボールを投げて、そして取りにいく……

それを黙々と繰り返していた。



……ちょっと声かけてみようかな。

そう思って、私は公園に入った。



「慶太君」


後ろから声をかけると、慶太君は反応してこっちを向いた。

そして、私を見た瞬間、露骨に嫌そうな顔をした。


……まあ、予想はしてた反応だけどね。


そして、慶太君は私のことは無視して、またフェンスに向かってボールを投げた。

ボールを取りに行って、戻ってくる時も、私の方は見ようとしない。


だけど私は慶太君を見て、その左手に真新しいグローブをつけてくれてるのに、今気付いた。


「慶太君、野球好きなの?」


……カシャン


私が話しかけても、慶太君は口を開かない。

返ってくるのはフェンスにボールが当たる音だけだった。


……めげるもんか!


「そのグローブ、かっこいいね」


慶太君は、ボールを取りにいく。


「誠司さん……お父さんに買ってもらったの?」


もとの位置に戻って、またボールを投げる。


……流石にちょっと、寂しくなってきたよ。

なに、この子。完全無視を決め込む気?


「……じいちゃん」

カシャン、と、ボールがフェンスに当たったのと同時に、慶太君の方から声がした。


「え?」

音が重なったのと、不意だったのとで、せっかくの言葉を私は聞き返してしまった。


「じいちゃんに買ってもらった」

慶太君はそういいなおしてくれて、ボールを拾いに行った。


……ちょっとびっくり。ちゃんと言葉が帰ってきたよ。

だけど、これはチャンスだ!