彼と私と秘密の欠片


「あらまあ……栄ちゃん……」

郁子さんが栄太君の背中をさすったり、体を揺すったりして栄太君をあやす。


泣き止まない栄太君を見て、何だか申し訳ない気分になる。


「すみません……」


「いいのよ。気にしないで」

栄太君をあやしながら、郁子さんは立ち上がった。

私も立ち上がって、リビングへと鞄をとりに行った。


「慶ちゃん。雛子ちゃん、もう帰るんだって」

郁子さんが先にそう言いながらリビングに入っていく。

でも、反応はない。


「慶ちゃん?」

郁子さんがもう一度言うのと同時に、私もリビングに入った。


すると、こっちに背中を向けて、床にごろんと横になっている慶太君が見えた。


「寝ちゃったのかしら」

郁子さんは慶太君を覗き込む。


「さっきまで起きてたと思ったのに……あ、上にかけるもの持ってこなくちゃ」

そういう郁子さんを横目に、私は自分の鞄を持って、帰る支度をした。


チラッと慶太君を見る。

本当に目を瞑って、眠っているように見える。


でも、もしかして、狸寝入りじゃないだろうか。


私と顔を合わせるのが嫌だからとか。


……なんて、そんな歪んだことを思ってしまう。


ダメだよね。純粋な子供に対してそんな風に思うなんて。


でも……あんなひねくれた態度示されたら、そりゃ思うよね。


まあいっか。どっちでも。

ちゃんと起きてたとしても、多分、私のことは嫌だろうし。

あ、逆? 私が帰るから、喜ぶ?


……いいや。どっちでも。