そこに郁子さんが戻ってきた。
「はい。これ、うちの番号と、私の携帯の番号。私、ほとんど家にいることが多いから、家の方にかけてくれたらいいわ。もし出なかったら携帯のほうにかけて」
郁子さんは二つの番号が書かれたメモ用紙を私に差し出した。
「あ、はい……ありがとうございます」
「じゃあ、雛子ちゃんの番号も教えてくれる?」
郁子さんは準備もよく、また違うメモ帳とペンを持って言った。
「はい……えっと、090――」
私が郁子さんに自分の番号を教えた。
「はい。ありがとう」
メモをした郁子さんはにっこりと微笑んだ。
会って二度目にして番号交換しちゃった。
……何かいいのかな。
流されるままのことだとはいえ、ここまでスムーズにいってしまうと逆に不安になる。
「それじゃあ、私、帰ります」
とりあえず、時間的にももう帰らないといけないし、私は郁子さんに告げた。
「うん。それじゃあ、栄ちゃん……」
郁子さんが私の膝の上の栄太君を抱き上げようとした。
「うう~! あっあっ! やっ!」
栄太君はさっきと同じように、私が着ている郁子さんのTシャツをしっかりと握り、離してくれなかった。
「栄ちゃん……本当に雛子ちゃんのことが気に入っちゃったみたいね」
郁子さんは苦笑して、私の正面にしゃがんだ。
「でも栄ちゃん。雛子ちゃん、もうお家帰るから。おばあちゃんのとこおいで」
栄太君の脇の下に手を入れて持ち上げようとしても、手だけはしっかりと握っている。
赤ちゃんなのに、どこにこんな力があるんだろうってくらい。
だけど、郁子さんがちょっと無理矢理栄太君を私から引き剥がしたら、栄太君の手も外れた。
「ああーっ!」
栄太君は私から離れても私に手を伸ばしていた。
「うえぇ~……」
そして、栄太君は泣き出してしまった。


