この場合、そう言うしかないだろう。
どっちにしろ、私は栄太君が離してくれないと動けないから。
「本当? じゃあ、お願いしようかしら。何だか、雛子ちゃんにはお世話になってばっかりね」
「いいえ。そんなことないです。気にしないで下さい」
「ごめんなさいね。すぐに戻ってくるから……あ、そうだ。慶ちゃん……慶ちゃん。慶ちゃーん?」
郁子さんは和室を出て行って、リビングの方に行ったようだ。
「慶ちゃん。おばあちゃん、今からお買い物行くけど、慶ちゃんはどうする? 雛子ちゃんがおうちに居てくれるから、お留守番してる?」
郁子さんの声が何となく聞こえてくる。郁子さんの声は、結構通る声だ。
それから、そう。じゃあ、おでかけの準備してね。という声が聞こえた。
「雛子ちゃん。慶ちゃんはお買い物行くから、栄ちゃんと二人で、お留守番お願いね」
「はい」
郁子さんに返事をしながら、やっぱりな、と私は思った。
何故か私のことを嫌っているらしい慶太君は、私と一緒に居たがらないだろう。
まあ、どっちにしても私はこの状態だから、慶太君の相手はできないだろうけど。
「じゃあ、お願いね、雛子ちゃん。なるべく早く帰ってくるから」
十数分後、買い物へ行く支度をした郁子さんが最後に声をかけてくれた。
「もしインターホンとか電話が鳴っても、気にしなくていいから……それと、もし栄ちゃんが離してくれるようだったら楽な体勢になっていいからね」
「はい」
「それじゃあ、行ってきます」
「はい。行ってらっしゃい」


