ここだよ。と、誠司さんが立ち止まったのは、誠司さんが働いている店から歩いて十分ぐらいのところで、案外私の家とも近いところだった。

私の家は三丁目で、ここは二丁目。

私はほとんどこの辺りに来ることはないけれど、まさかこんなに近いところに誠司さんの実家があったなんて……


『時枝』という表札を見ながら私は世の中の狭さを思う。


「雛ちゃん、ちょっとここで待ってて」


「ぅ、え?」

誠司さんが言ったことが予想外過ぎて、思わず変な声が出てしまった。


「すぐ戻るから」

誠司さんはそう言うと、私が何か言い返す前に、実家の門を開けて、玄関に向かい、そのまま家の中に入っていってしまった。

私は、呆然としてしまって、ただわけが分からずに誠司さんが消えた玄関を見つめていた。


……何? どういうこと?

何で私はここで一人で取り残されてんの?


誠司さんの実家に連れて来られたってことは……誠司さんの親に会うとか……少なくとも実家にお邪魔することになるのかと思ったけど……そういうの全然無し?

いや、あったらあったで困ってたけど。


でも、だからって、事情も話さないでこんなところで待ちぼうけ?


誠司さんが何を考えているのか、全く分からなくなってしまった。




……ていうか、遅いんですけど。


誠司さんが家の中に消えてから、もう十分近く経とうとしている。


すぐ戻るって言ってたよね? あれってどういう物差しで言ったの?


誠司さんは割と急いだ様子で行ったから、そのまますぐに戻ってくるかと思ってたのに、遅い。


中で何してるんだろ、誠司さん。


私は少し疲れて、表札の横にもたれかかった。