「ごめんなさいね。来たそうそうこんな感じで」
「いえ……あ、そうだ。これ……」
私は手に持った紙袋のことを思い出して郁子さんに差し出した。
「あら、なあに?」
郁子さんは栄太君を片腕に抱きかかえて、紙袋を受け取った。
「パウンドケーキです。お口に合うか分からないですけど……」
今日、招かれてくるのに手ぶらじゃなんだから、作ってきた。
何にしようか迷ったけど、ちゃんとした好みが分からなかったから、無難で失敗する可能性の低いパウンドケーキにした。
「あらー。わざわざありがとう。じゃあ時間も丁度いいし、おやつにしましょうか。今お茶入れるわね」
郁子さんは栄太君をまた床に座らせた。
「あ、手伝います」
「ううん。今日はお客様なんだから、ゆっくり寛いでて」
私が郁子さんについていこうとすると止められて、ソファーを勧められた。
やっぱりちょっと強引なところがあって、私はその押しに負けてしまった。
私はとりあえず言われたままにソファーに座った。
座った足先に、コツンと何かが当たる。
何かと思って見て見ると、車のおもちゃだった。
すぐに慶太君が取り上げて、少し離れたところでまた遊びだす。
ちらっとこっちを見たから、私は笑顔を作って「こんにちは」と言った。
だけど、すぐに顔を逸らした慶太君は、またシカト。
……なんでこの子はこうまで私に愛想悪いの。
何回も言うけど、私、何もした覚えないっていうのに。
この間はオムライス作ったんだし、気に入ってくれてたみたいだから、そろそろ警戒解いてくれてもいいと思うんだけど。
と、思っていると、今度は足に何かが触っているような感触がした。
また足元を見てみると、栄太君が私のことを見上げている。
相変わらず可愛いなあ、赤ちゃんは。


