彼と私と秘密の欠片


「今日はね、主人が休日出勤でいないのよ。だから、そんなに気つかわなくていいからね」


「あ、そうなんですか」


ちょっと安心したような、ちょっと残念なような。

誠司さんそっくりの剛司さんにも、ほんのちょっと会いたかった気がする。

でも、緊張する対象は予想より減ったけど、だからといって緊張しないわけはないんだけど。


「さあ、どうぞ」


ガチャン!


郁子さんがリビングのドアと空けた瞬間、何かが割れたような、壊れたような、そんな音がした。


「あー! えいた何すんだよ!」

慶太君が叫ぶような声もした。

見ると、床にちょこんと座った栄太君の周りには積み木が散らかっていて、それを不服そうに慶太君が見ている。


「あらあら、どうしたの慶ちゃん」


「ばあちゃん。えいたがつみきくずしたー!」

慶太君がむっとした表情で郁子さんに言う。

それと同時に私のことを見て、更に不機嫌な顔になる。

そして栄太君は、状況をそ知らぬ顔で、きょとんとしていた。


「あらまあ。栄ちゃん、メでしょ。慶ちゃん、お兄ちゃんなんだから許してあげて」

郁子さんは栄太君を抱き上げて叱る(といってもそう見えないくらいだけど)と、慶太君もは宥めるように言う。


栄太君はやっぱり何のことか分かってない様子で、慶太君はむうっと不機嫌そうなままだった。