誠司さんは、ほんの少し困惑したような表情を浮かべた。

私が言いそうなこと、予想がついてるのかな?

それとも、何を言い出すんだって思ってるのかな?


今はどうでもいいか。

とにかく、伝えないといけない。


「誠司さん。私、本当は誠司さんのこと、諦めて、今度はきっぱり振られるつもりだったの」

私は誠司さんの目を逸らさないように、じっと見上げて言った。


本当は、告白した時点で、もしまたダメだったら、諦めるつもりだった。

誠司さんの本当の事情を知らないままでも、誠司さんが私と付き合えない理由が今とは違っても、ダメだったらもう、本当に最後にするつもりだった。


「でも……無理だったの。私はやっぱり、誠司さんのことが好き。誠司さんが結婚してたこととか、子供のこととか聞いて……びっくりはしたけど、それでも、諦められなかったの」


誠司さんの事情を知って、今まで誠司さんが私と付き合えないって言ってた理由が分かった。

確かに、私と付き合えない理由としたら、妥当だと思った。


でも、私が誠司さんを諦める理由には、ならなかった。


「だからね、誠司さん。私、今まで通り誠司さんのこと好きでいてもいいかな」

私が言うと、誠司さんは目を見開いた。

私は誠司さんが何かを言う前に続けた。


「誠司さんの気持ちが変わらないんなら、それでもいい。だけど、私が諦められるまでは、誠司さんのこと、好きでいさせて」


これが、私の決めたことだった。


誠司さんのことは、諦めようとして諦めることができなかった。


それなら、諦める理由なんてない……んじゃないかと思った。

だって、私の気持ちは、諦めようとして諦められるような気持ちじゃなかったから。