彼と私と秘密の欠片


「……ぐえっ!」

いきなり電話の向こうの誠司さんが変な声を出した。


「こら! 慶太! ちゃんと寝ないとダメだろ」

ちょっと離れた声でそう言うのが聞こえる。


「どうしたの?」


「ああ、ごめん。慶太が起きてきて俺の上にのっかってきたから」


「そっか」

私はふと時計を見た。

いつの間にか、もう十時前になっていた。


多分、慶太君達を寝かしつけてから電話してきてくれたんだな。


「ごめん、雛ちゃん。また慶太を寝かさないといけないから……もう今日はもう切るね」


「あ、うん! 分かった。全然いいよ」

反射的にそういったものの、本当はすごく寂しい。

せっかく誠司さんから電話が来たのに……


でも、誠司さんは私の彼氏ってわけじゃないし、子供がいるんだもん。しょうがないよね。


「それじゃあ……また。おやすみ」


「うん。おやすみなさい」


電話を切ると、私はベッドに倒れこんだ。


たった一日ぶりのはずなのに、誠司さんの声が、すごく懐かしかった。

それに、すごく嬉しかった。


最後は『また』って言ってたけど、次を約束するような言葉じゃない。


きっと、これからも、私から誠司さんの方から連絡して、ランチとか一緒に行ったりは、しようと思えばできると思う。


それなら誠司さんは、いつも通りにいてくれると思う。

オトモダチ程度の付き合いなら、誠司さんは喜んでしてくれる。


だけど、私はそう思える? オトモダチとしてこれからも誠司さんと接することはできる?



私の中ではもう、答えは出ていた。