彼と私と秘密の欠片


「あっ……すみません」

流石に失礼だ。人のやり取りを笑ってしまうなんて。


「いや、こちらこそ……うちのがすまないね、やかましくて」


「あなた、何よそれ」

郁子さんがキッと睨むと、剛司さんは逃げるように台所へと行った。


「……すごく賑やかでいいと思います。うちは最近全員揃うことはないし……揃っても皆静かなんで」

うちは特に仲が悪いとかではないし、よくある家庭だと思うけど、この家を見ると、すごく明るいなあって思う。


「小さい子供がいるからかしらね。つい色々喋ったりしちゃうのよ」

郁子さんがそう言いながら、グラスにお茶を注いでいく。


「雛子ちゃん、そこ座って? お茶だけでも飲んでいってね」

郁子さんは、食卓の準備をしていない空いている席にグラスを置いて、勧めてくれた。


「いえっ……私はもう帰るので……皆さん、これからお食事ですし」

 私はオムライスを作るってだけでここに来たのだ。だから、もうやることは終わったのだから、長居をするわけにもいかない。


「いいのよ、全然。よく考えたら、折角きてくれたのになんのおもてなしもしてないんだから。それどころか仕事させちゃったもんだし……時間が大丈夫なら、お茶一杯だけでも飲んでいって」


「……じゃあ、ちょっとだけ……お言葉に甘えて」

何だか今日は郁子さんに流されてばっかりのような気がする。


でも、もうお茶を入れてくれた郁子さんの親切を断るのも悪い気がして、本当にこのお茶一杯だけ貰っていくことにする。