彼と私と秘密の欠片

「あら、あっという間。すごく綺麗」

オムライスをまじまじ見て、郁子さんは手を合わせる。

そうやって褒められるとやっぱり嬉しくて、顔がにやけてしまった。


「味がちゃんと出来てるかは分かりませんけど……」

顔を誤魔化すためにそう言った。


「ううん。絶対美味しいわよ、これ。先に食べちゃおうかしら」

郁子さんがチラッとリビングの方を気にする仕草をして、本気で言っているような雰囲気だったから、私はつい笑ってしまった。


「すぐ皆さんの分作りますね」


なんだか楽しくなって、私は張りきって次のオムライス作りに取りかかった。




「ご飯できたわよー」

私とテーブルの準備をしながら、郁子さんがリビングにいる慶太君と剛司さんに声をかけた。

リビングでは、慶太君がソファーの上で剛司さんにじゃれて遊んでいた。

そのすぐそばで、栄太君も言葉にならない声を出している。

「慶太、ご飯だって。手、洗っておいで」


「はぁい」

剛司さんに抱き上げられてソファーから降りると、慶太君は素直に返事をして台所に向かった。

剛司さんは今度は栄太君を抱き上げて、こっちに連れて来る。


「お、美味しそうだなぁ」

テーブルの上を見て、剛司さんが言った。


「そうでしょ。絶対に美味しいわよ、これ」

郁子さんが得意げに言う。


「別に母さんが作ったわけじゃないだろ」

剛司さんが呆れたように言いながら、栄太君を赤ちゃん用の椅子に座らせる。


「分かってるわよ。あ、あなたもちゃんと手、洗ってきてよね」


「分かってるよ」


郁子さんと剛司さんの絶妙なやり取りを聞いて、私は思わず吹き出してしまった。