彼と私と秘密の欠片


それはそれで置いといて。


誠司さんに、私が作ったものを食べられるってこと?

うわー。なんか緊張する。


誠司さんは、私がフードコーディネーターを目指して調理の専門学校に行っているというのは知っている。

でも、誠司さんに何か作って持っていったこととかはないし、なんだかすごく照れ臭い感じがする。


それに何より、手が抜けない。

勿論、ここまで連れて来られた手前、失敗するつもりも手を抜くつもりもなかったけど。

だけど思った以上に気合が必要みたいだ。


よし! やるぞ!



「あらぁ……本当に手際いいわねぇ」

郁子さんがサラダの野菜を切る手を止めて言った。

私は、丁度一つ目のオムライスのケチャップライスを、一旦ボウルに移したところだった。


「ケチャップライスって、一回ずつ作るのね」


「そうですね。少し面倒くさいですけど、その方がうまくできますよ。いっぺんにたくさん作ろうとしたら、うまく混ざらないし、混ぜるのに時間がかかってお米に粘り気がでちゃいますから」

とき卵をフライパンに流しこみながら私は答えた。


「へえ……あ、だからチャーハンでもなんでもうまくいかないのね。パラパラにしたいのに、どうしてもベタベタしちゃうの。いっきにやろうとするからダメなのね」


フライパンを傾けて、卵を均等に広げた。


「そうかもしれないですね。お店なんかだと一回で何人前も作りますけど……でも、家庭用だと火力も器具も違いますから。このフライパンだったら……大体二人前から三人前くらいが妥当だと思いますよ」


「なるほどねー。でも、うちは男ばっかだからついめんどくさくて一気にやっちゃうのよね。子供が高校生の時なんか、よく食べるから特に大変だったわ」


「分かります。私もお兄ちゃんがいるので……」


ケチャップライスを広げた卵の上に乗せて、ここからは、一気に仕上げる。

フライパンを動かして、卵を巻き込んでいく。

手前に傾けながら前後に動かすと、徐々に包まれていく。

くるんと卵が一周したところで、お皿をとって、オムライスを乗せた。