「ああ、はい。どうも、誠司の父の剛司です」
誠司さんのお父さん――剛司さんは、とりあえず、といった風に挨拶を返してくれた。
今よく顔を見てみると、目の辺りとか、口元とか、何となく誠司さんに似ている。
数十年後の誠司さんはこんな風になるのかな、と想像してしまった。
「それで……どうしてうちに?」
剛司さんの表情にはほんの少し怪訝な色も見えた。
そりゃそうか。普通の人はまず思うよね。
「今日ね、スーパーに買い物に行ったら偶然会ってね。慶ちゃんと面識あったみたいだから分かったんだけど。それで、慶ちゃんが今日はオムライスが食べたいっていうから、作ってもらおうと思って。雛子ちゃん、調理の専門学校に行ってて、料理が上手いみたいだから」
かいつまんで言うとそうなんだけど、何となく違うような……
まあいっか。細かいとこまで訂正してたらきりがないし。
「母さん……またそんな迷惑なことを……すみません。うちの家内が無理言ったみたいで……」
剛司さんは郁子さんに呆れたようなため息をついたあと、私に軽く頭を下げた。
「いえっ、とんでもないです。私こそ勝手にお邪魔してしまって……」
ちょっと強引に連れて来られたとはいえ、謝られると変な感じがする。
それも誠司さんのお父さんにだ。
どうやら剛司さんは郁子さんとは違って、常識のある人らしい。
もちろん、郁子さんが非常識というわけではない。
そりゃまあ、普通、いくら息子の知り合いだからって、初対面でいきなり家に招き入れて料理をさせる人なんていないとは思うけど。
「いいのよ、雛子ちゃんが謝らなくたって。さ、続きしましょ。あなた、慶ちゃんと栄ちゃんのこと見ておいてね」
郁子さんだけがこの状況を全く気にしていないようで、私を再び台所に促した。
剛司さんはそんな郁子さんにため息をついたけれど、すぐに慶太君の方を見て「じいちゃん、着替えてくるな」と頭を撫でて言った。
……やっぱり、剛司さんがおじいちゃんっていうのも、何か不自然だった。


