「いいえ、いいのよ。雛子ちゃんは、事情知ってるんでしょ?」
郁子さんはそう言ったけど、私はどう答えたらいいか迷った。
確かに誠司さんのことは聞いたけれど、昨日聞いたばかりで、今もまだ実体がつかめていないというか、分からないところもある。
それを勝手に、知っていると言っていいのか、私には分からない。
「誠司もねぇ……私が言うのもなんだけど、何を考えてるのか分からないところがあるから……」
私が何も言わないのを気にしてないのか、郁子さんは ため息混じりに言った。
「今もね、子供二人抱えて、しかも、ただでさえ、生活するために稼がないといけないのに、美容師っていう仕事で、満足に子供と一緒に居られないことも多くて……それなのにパートで暮らしてるでしょ? こっちで一緒に暮らしたらいいじゃないって、何回も言ってるのに、きかないのよ」
さっき、私が疑問に思っていたことだった。
やっぱり、郁子さんは一緒に暮らした方がって思ったんだ。
「最初に結婚して……離婚した時はね、やっぱり大変だからって、こっちで暮らしてたのよ。まあ、慶ちゃんがまだ幼稚園に行く前だったっていうのもあるんだろうけど……だけど、二度目に結婚して……彼女が亡くなった時は、そうじゃなかったのよ。栄ちゃんが……産まれてすぐの子供がいるっていうのにね、子供達と三人で暮らすって譲らなくて……」
郁子さんが言いたいことはわかる。
一度目と比べて、二度目の状況の方が、精神的にも厳しい。
それなのに、誠司さんは敢えて今の形を選んだのだ。
「多分、もう私達に迷惑かけたくないって、誠司なりに思ったんでしょうけど」
郁子さんはそう結論を出していたけど、私は、何となく、そうじゃないんじゃないかと思った。


