彼と私と秘密の欠片


玉ねぎの微塵切り。

半分に切った玉ねぎをスジに沿って包丁を入れて、横にむけて、刻んでいく。

玉ねぎはやっぱりちょっと目にしみる。だけど、これくらいは平気。


「上手いわねえ……本当、手つきが慣れてるわ。やっぱりおうちでやってると違うのねぇ」

郁子さんが感心した様子で見てくれる。

やっぱりそれはちょっと嬉しい。


「私、元々、料理が好きだったんで……昔からお母さんの手伝いとかで包丁使わせてもらってたんです。それで自然と」


「あらそう……女の子ねぇ。料理できるなんて、将来いいお嫁さんになれるわよ」


「……ありがとうございます」

何か、誠司さんのお母さんに言われると、微妙な感じだな。


「……そういえば、雛子ちゃんって、歳いくつ? 何やってるの?」

今になって思いついたように郁子さんが言った。


「えっと、今年二十歳になりました。今は、調理関係の専門学校に行ってます」


「あら。調理の? 学校でも結構本格的に料理の勉強してるのね。じゃあ、将来はそっち方面の仕事に就きたいとか?」


「はい。フードコーディネーターになりたくて……とりあえず、今は資格をとろうと思ってるんです」


料理好きが高じて……っていうわけでもないけど、今の私の夢は、フードコーディネーターになること。

一口にフードコーディネーターと言っても、活躍の場は人それぞれで、その範囲は広い。

まず資格を取って、最終的にはそれを生かして、その方面で仕事ができたら……それが私の目標だ。


「そう。それなら上手いはずよね。学校でもおうちでもやってるんだもの。私なんかじゃとてもじゃないけど無理だわ。今の家事だけでもうんざりだもの」

郁子さんは大袈裟なほどにため息をついた。

そしてこっちを向いた郁子さんと、顔を見合わせて笑った。