「それじゃあ、何がいるかしらねー」
郁子さんは、もう何も気にしていないようで、冷蔵庫の中を見ている。
郁子さん……すごいマイペースな人だな。
さっきからずっと思ってたことだけど、周りがどうあれ、自分のペースは崩さないようだ。
こういうところは、私が知ってる誠司さんに、ほんの少し似ていると思う。
何だか少し安心した。
「あ、昨日の残りの肉じゃががあるわ。これと……サラダか何かでいいわよね。オムライスだし」
「はい」
「えっと、それからー」
郁子さんは今度は野菜室らしき段を開けている。
「……よく考えたら、オムライスに必要なものって考えて買ってなかったわ」
とてものんびりとした口調で郁子さんは言った。
「えっ……」
材料買ってたわけじゃないんですか?
流石に、よそ様の買い物のことだし、郁子さんも何も言ってなかったから、材料はある程度揃ってるのかと思ったのに……
それでも郁子さんは全く慌てることなく、何があるかしらねぇ、といいながら冷蔵庫を覗いている。
「オムライスっていったらチキンライスよね? 鶏肉は買ってないわあ」
「あ、大丈夫ですよ。鶏肉はなくても、いわゆるケチャップライスでも十分ですよ。それにオムライスっていっても、バターライスとか……ちょっと変わったものもありますし」
「あら、そう。……そういえば、テレビで見たことあるわねぇ」
郁子さんは何かを考えるような仕草をしている。
「うん。じゃあ、もう全部雛子ちゃんに任せるわ。大したものはないけど、冷蔵庫のものも必要なだけ使っちゃって」
郁子さんは、にっこりと笑顔で考えることを放棄したらしい。
「えっ……で、でも……」
任せるって言われても……ていうかそれって、丸投げっていわないですか?
「いいのよ。気なんて遣わなくても。私が頼んだんだし、自分の家だと思ってやって。私でも手伝いくらいはするから」
「はあ……」
郁子さん……自由すぎるって思ったら失礼ですか?


