彼と私と秘密の欠片


「……あの、ちょっと時間早いですけど、いいんですか?」


まだ午後六時過ぎ。

早い人ならこれくらいの時間からするけど、私の感覚ではほんの少し早いんじゃないかってぐらいの時間。


「ええ。いつもよりちょっと早いけど……でも、雛子ちゃんの帰りが遅くなっても悪いから、いいのよ」


「すっすみません。何か気を遣って頂いて……」

余計なこというもんじゃない。なんか言うこと全部裏目に出ちゃうみたいだ。


「いいのよぉ、本当に。こっちが無理矢理お願いしたんだから。それに、主人も七時には帰ってくるから、丁度いいわ」


「そうなんですか……」


「雛子ちゃんのおうちは、何時頃にご飯なの? もうちょっと遅い?」


「えっと……日によって違うんですけど……大体八時ごろで……両親が共働きみたいな感じなんで、揃って食べようとするとそうなるんです」


「そうなの。大変ねぇ……あ、もしかしてそれで料理のお手伝いとかしてたの?」


「はい。下ごしらえとかは、私がやってるんです」


いつも、私が夕飯の準備してる時にお母さん達が帰ってきて、それからは二人で支度をする。そんな感じだ。


「そう……あ、それじゃあ、もしかして今日も夕飯の支度とかあったの?」


「いえ。今日は大丈夫です。今日は仕事休みなんで、お母さんが家にいるんで」

今日は、木曜日だから休診日。休診日だからっていつも全く仕事がないわけではないけれど、夕方には大体家に居る。

だから、今日はお母さんが夕飯を作ってるし、それで、牛乳買ってきて、なんて……


「あっ!」

私は思わず大声を出してしまった。


「どうしたの?」

郁子さんは目を丸くしている。


「い……いえっ。何でもないです」

慌てて手と首を横に振った。


うっかりここにくるってなって、うっかり忘れてた。

私、牛乳買いにスーパー行ったんだった。それどころじゃなくて買ってないし。


帰りにまた買いにいかないと……