廊下を歩く私を慶太君が追い越してドアへと向かう。
啓太君は、お菓子とかパンとか、軽いものが入った袋を運んでいる。
それで啓太君が先にドアを開けたから、私もそれに続いて入ろうとした。
と、その鼻先で、ドアが閉まった。
……わざとか、あんにゃろう!
明らかに意図的に閉められたドアを前に、私の拳がわなわなと震えた。
子供だからって許されると思ったら……
「雛子ちゃん?」
後ろから郁子さんに声を掛けられた。
「あ、はい」
私は慌ててドアノブを下に引いて、ドアを開けた。
広めのリビングには、子供用のおもちゃとかがあって、賑やかな雰囲気だった。
「あ、ごめんなさいねぇ。散らかってて」
郁子さんがちょっと申し訳なさそうに言った。
「いえ、そんなことないです」
首を振って返事をすると、ふと視界に入るものがあった。
壁に貼ってある、画用紙の絵。
お世辞にも芸術的には上手いとはいえないけれど、でも、子供らしい、一生懸命な絵。
肌色の丸に、黒で髪と目と鼻と口。その横には『じいちゃん』と、覚えたてのような字で書いてあった。
「ああ、これね、慶ちゃんが描いたのをうちの主人が喜んで貼ってるのよ。本当、ジジバカなんだから」
郁子さんが呆れたような口調で、でも幸せそうに言う。
絵の他にも、写真たてに慶太君や栄太君の写真が飾ってあった。
運動会とか、遠足とか、幼稚園の行事らしいものであったり、誕生日とか、クリスマスの年内行事らしいものであったり、庭のビニールプールで遊んでいたり公園で遊んでいたり……そんな写真がたくさんあった。
おもちゃがあって、思い出の写真があって、子供への愛があって……
子供のいる幸せな家庭。
そんな空気が漂っていた。


