彼と私と秘密の欠片



「あら、そうなの。もしかして、料理が得意なの?」


「はい……そこまで得意というほどじゃないですけど……」

でも、特技といえばそれぐらいしかないんだけど。


「じゃあオムライスも作れるの?」


「はい。一応は……」


郁子さんは何で聞いてくるんだろう。

……なんかちょっと嫌な予感がするし。


「そう。じゃあ、うちに来て作ってくれないかしら」

郁子さんが笑顔を作って言った。


「……へ?」

私はわけが分からすポカンとする。


……何か昨日もこういうことがあったような……


郁子さんは、ニコニコと笑顔を湛えたままだ。


「あ……あの?」

もしかしたら聞き間違いとか、私の勘違いかもしれない。郁子さんの様子を窺ってみる。


「私ね、あんまり料理が得意じゃなくて、作れる料理が偏ってるのよね。だから、コツとかも教えて欲しいんだけど……」

郁子さんはマイペースにそう言う。


「えっと……私がこれからおうちに伺うということですか?」


「ええ、勿論」

率直に聞くと、即答でそう返ってきた。


「もしかして、これから予定があるの?」


「い、いえ、ないですけど……」


「おうちの方が厳しいとか?」


「いえ、そういうわけでもないですけど……」


「じゃあいいでしょ? 別に気は遣わなくてもいいのよ。私が誘ってるんだから。ね?」

何だか強引な流れで誘われている。


ちょっと、断るに断れないんですけど……


だって、誠司さんのお母さんだよ!?

更に今、私は誠司さんと気まずい感じなのに……


「うん。じゃあ、そうと決まったら、早く買い物して帰らないとね」

郁子さんは張り切った様子で言った。


ええ!? 決まったの!? 一体どのタイミングで決まっちゃってんの!?


だけど、今更断ることも出来ずに、私は黙って郁子さんについていくことになった。



……ていうか。

慶太君がめちゃくちゃ嫌そうな顔で私を見てくるんですけど!


言っとくけど(実際には言えてないけど)私のせいじゃないからね!