彼と私と秘密の欠片


ていうか。この場面ではもうちょっと違う言い方した方がよかったかも。

常連として交流があるっていっても、何か微妙だし……


「誠司の? でも、慶ちゃんのことも……栄ちゃんのことも知ってるの?」

女の人はちょっと驚いた様子だ。


「……あ、はい。一応……」

知ったのは昨日のことだけど。

でも、この様子だったら不審がられてるかも……?


しかし、反応は予想外だった。


「そう……そうなの」

女の人は、ほっとしたような、安心しきったような表情になった。


「あ、申し遅れました。私、誠司の母の郁子です。誠司がいつもお世話になってます」


「い、いえ。こちらこそ」

やっぱり、誠司さんのお母さんだった。

郁子さんが丁寧にお辞儀をしたので、私も慌てて頭を下げた。


何か、案外大丈夫だった?

もうちょっと何かあるかと思ったけど……


慶太君は、依然私を警戒してるのか、私と目が合うと、さっと郁子さんの後ろに隠れてしまう。


「ばあちゃん、もうかえろうよ」

郁子さんの後ろで慶太君が言う。


郁子さんも、私の親と同世代だろうし、おばあちゃんと呼ばれると不思議な感じだ。


「慶ちゃん、まだ買い物終わってないでしょ。今日のお夕飯何にするか決めないと」


「オムライスでいいよぉ」


「だからね、慶ちゃん。おばあちゃん、オムライスは難しいから違うのがいいなあ」


「ばあちゃん、つくれないの?」


「うん。作ったことないの。オムライスってねえ、難しいのよ? ねえ?」

郁子さんが突然私に話を振ってくる。


「あ……はあ……でも、オムライスは、コツを掴んだら大体うまくいきますよ。卵で包む時に、こう、フライパンの縁を使って小刻みに動かしたら、上手く包めますから」

私は身振りでフライパンを動かすようにするのを伝えようとする。


……余計なことしたかな。


でも、なんか気になっちゃって……