彼と私と秘密の欠片



南と別れてから、私は特に予定もなかったので、家に向かって歩いていた。


すると、鞄の中で携帯が震えた。


取り出して見てみたら、お母さんからのメールだった。


『もう帰ってくるの?
帰りに牛乳買ってきてほしいんだけど』


そんな内容だった。


『もう帰るよ。
分かった、買ってくる』


そう手早く打って返信した。


私の家は、小児科の家庭医をやっている。

お父さんが院長で、お母さんは事務的なことをしている。

だから、昔から、夜に親が帰って来るまでは、家には私と五つ上のお兄ちゃんだけしかいなかった。
今はお兄ちゃんも研修医として働いているから、私だけだけれど。


そんな環境で育ったわけだから、買い物とか、家の手伝いは小さいころからしていた。

だからこういうことは、いつもあること。


と、思っていたけれど、今日は、いつもと同じ、ということにはならなかった。



牛乳だけだから別にコンビニでもいいんだろうけど、私はいつも、スーパーまで買いに行く。

そっちの方が安いから。


私はスーパーの中に入ると、牛乳がある場所まで歩く。

ぼんやりと、何も考えずに歩いていた。


「ケイちゃん、今日のお夕飯何がいい?」

後ろから声が聞こえる。


夕方というこの時間帯。

親子連れで買い物に来てる人も多い。

だから、そんな会話も、何気なく耳に入ってしまう。


「オムライス!」


……ん?

何かこの声は聞き覚えがあるような……


「うーん。おばあちゃん、オムライスはちょっとねえ……もうちょっと違うのにしよう?」


「えー!」


私は恐る恐る後ろを向いた。


「……あっ!」

振り向いた先を見て、私は声をあげた。


そこには、予想通りというかなんというか……慶太君がいた