「雛ちゃん、俺……」


「待って!」

言いかけた誠司さんを遮った。


「……ごめん、今日は……返事聞かなくてもいいかな」

誠司さんのことは見ることが出来ないで、私は下を向いた。


「今日は色々聞きすぎて、その……受け止められるか、分からないから……」

正直、この時の私は、頭の中がパンパンで、これ以上のことが入る余地がなかった。


「うん……分かった」

誠司さんは何も言わず、そう言ったきりだった。



「で?」

南は更に先を促してくる。


「で? って……それで昨日は帰ったけど……」


「何で? それって結局さ、振られるのは分かってて、ただ振られるのを先延ばしにしただけでしょ?」


「……それは……そうだけど」


確かに、南の言うとおりだ。


誠司さんの返事は、分かりきっている。

今まで通り、そして、今回は本当に、振られる。


だからこそ、私は昨日、聞かなかった。


分かっているのなら、そんなの意味ないとは分かっているけれど、やっぱり、余裕がなかった。


「でもさ、それって、雛子はもう振られるってことで納得してるってことでしょ? それで先延ばしする理由なんてある?」

南の言うことが、ぐさっと胸に刺さる。


「どうせ振られるんなら、さっさと区切りつけて次にいったら? そんな事情があって付き合えないって言ってる人のことをいつまでも思ってても、不毛なだけでしょ」


……不毛。

確かにそうかもしれない。


だけど……


「諦められるならとっくにそうしてるよ」

私はテーブルに顔を伏せた。


もしも、昨日の今日で諦められる程度の気持ちなら、今まで振られてきた段階で、もうとっくに諦めていると思う。



あたしだって、何回も何回も、これで諦められたらどんなに楽だろうって、思ったこともあった。


だけど、ずっと諦められないで……



こんな気持ちは、すぐになくなるものだなんて思えない。