「えーっと……それならなんて言ったらいいのかな」
誠司さんは困った顔をしている。視線を下にしたまま何か考えているようだ。
「……やっぱり、今までに言った通りの気持ちだよ。雛ちゃんのことは、嫌いってわけじゃない。でも、やっぱり、付き合えない」
視線を上げて誠司さんは言った。
「年が六つ離れてるから?」
私はじっと誠司を見つめて言った。
「私のこと、妹にしか思えないから? それって、私のこと、子供扱いしてる? 私、もう二十歳なんだけど」
少し不機嫌な声になってしまっただろうか。
でもそれでもいい。それが私の気持ちなんだから。
「そういうわけじゃないよ。雛ちゃんは可愛いよ。女の子として、すごく魅力的だと思うし」
誠司さんはまるでフォローするかのように言う。
「……じゃあ何で? 何で私は誠司さんの彼女にしてもらえないの?」
さすがにこの言い方は、うざいかもしれんない。
誠司さんは目を丸くしている。
だけど、流石にキツイんだよ、誠司さん。
何度も何度も告白して、断られても諦められないこの気持ちをずっと抱えてるのは。
「雛ちゃん……違うんだよ。俺が雛ちゃんと付き合えないのは……俺が雛ちゃんに相応しくないからで……」
流石の誠司さんもしどろもどろになっている。
「また年の差がどうのって話?」
「それもあるけど……でもそれだけじゃないんだよ。雛ちゃんは、俺のことをよく知らないから……だから、もし知ったら、幻滅するだけだよ」
誠司さんは、今までで一番真剣な目で私を見た。
「確かに……知らないよ。誠司さん、何も教えてくれないんだもん」
誠司さんの名前と、年齢と、誕生日と、血液型と……好きな食べ物に好きな色、嫌いな食べ物に苦手な芸能人……
私はこれぐらいのことを知っている。
挙げてみると意外と多いのかもしれないけれど、それでもまだ足りない。
それらは全て、私が聞いて教えてもらったこと。それか、何気ない雑談の中で知ったことだった。
私は、誠司さんのことを、ほとんど誠司さんから教えてもらったことはない。