「いただきます」

二人に遅れて言って、私もスプーンを持って食べ始めた。


カレーは慶太君に合わせた甘口で、辛めのカレーに慣れている私には少し物足りない。

でも、懐かしい味がして、美味しかった。


「慶太、美味しいか?」

もぐもぐと口を動かす慶太君に誠司さんは聞く。


「うん。おいしー」

口の端にカレーをつけながら慶太君は満面の笑みで答えた。


「そうか」

誠司さんも嬉しそうに、優しい顔で頷いた。


「雛ちゃんは、どう? やっぱり雛ちゃんの口には合わないかな?」

誠司さんは今度は私に、申し訳なさそうな顔をして聞いてくる。


「ううん! 全然そんなことない。美味しいよ、本当に」

私は首を横に振って、答えた。


「そう? それならよかった」

誠司さんは安心した顔を見せる。



誠司さんは、いつもの誠司さんだった。


さっき話してたことなんて、なかったことみたいに。

さっきはなしてたことは、本当のことなのかなって思っちゃうくらいに。


勿論、嘘だなんて思ってないけど。

本当のことだから、誠司さんは何もなかったみたいに装ってるんじゃないかと思う。


それに、一番は、慶太君や栄太君がいるから。


子供の前では、さっきみたいな表情や素振りは、見せられないんだ。



「うー」


部屋の片隅のベビーベッドから声がした。


三人一遍にそっちにむくと、ベビーベッドにすわっている栄太君が柵につかまっている。

まるで牢屋に入れられたみたいになってるから、ちょっとおかしい。


「あっ。あっ」

柵と柵の間から私達の方に向かって手を伸ばしてくる。


「ん? どうした? 栄太」

誠司さんが栄太君に話しかけ立ち上がった。


「ううー」

栄太君も、柵につかまりながら立ち上がろうとする。

でも、まだ無理なようで、手すりにつかまり、柵にもたれかかっている状態だ。