「慶太ー。ごはんだぞー」


誠司さんが、トレイに三人分のカレーとを乗せて部屋に持って行く。

私はその後ろから、グラスとお茶を持って行った。


慶太君は、すぐに反応して、テレビの前からローテーブルにやってくる。

多分、いつも慶太君が座っている場所に、嬉しそうに座っている。


ほぼ正方形のローテーブルの一辺が慶太君の場所だとすると、その隣の辺が誠司さんの場所のようだ。

そして私は誠司さんの隣の辺、丁度慶太君の正面になるような場所になった。


「ちょっと待ってろな。サラダもあるから」

カレーとスプーンをテーブルに置きながら、誠司さんは慶太君に言った。

そして、トレイを持って台所に戻っていった。


あんな話をした後なのに、誠司さんは何事もなかったかのようだ。


そりゃそうか。

子供の、慶太君の前で、変わった素振りは見せられないよね。


私はお茶を三人分のグラスに注いだ。


「はい。慶太君」

車の絵がついたグラスを慶太君の前に置いた。


「…………」

慶太君は、正面に居る私のことをちっとも見てくれない。


人見知りするってことだからしょうがないとは思うけど、せめてもうちょっと愛想よくしてほしいなぁ……
せめて、もうちょっと私の方を見てくれるとか。


「はい、サラダ。慶太、ちゃんと野菜も食べないとだめだからな」

誠司さんがサラダを盛った皿をテ-ブルの中央に置いた。


「分かってるよー」

慶太君は素直に可愛らしく答える。


「よし。じゃあ食べようか」

誠司さんは自分の場所に座って言った。


「いただきます」

「いただきます」

誠司さんと慶太君が揃って手を合わせて言った。

その仕草も言い方も全く同じだったから流石は親子だなあなんて思った。