私は、息をしてるのか、してないのか、分からなくなっていた。
驚いたというか、何というか、息をするのを忘れてしまいそうなくらいの心地だった。
「彼女と結婚して、暫くしたら、子供ができたって分かってさ……それまではよかったんだ。思ったよりは早かったけど、でも、いつか彼女との子供も欲しいと思ってたから……。だけど、妊娠後期になって、彼女の経過がよくないのが分かって……妊娠中毒症だって……」
そこまでで、誠司さんの言葉が途切れた。
妊娠中毒症……
聞いたことはある。
あんまり専門的なことまでは分からないけど、妊娠後期になって発症する、妊婦にとって、あんまりよくない症状……
早産とか死産の可能性があって、酷くなると、母体の方にも負担が重くなるってことだったと思う。
……それに、誠司さんの奥さんが?
「見つかったのは、症状の初期の方だったから治療してたんだけど……なかなかよくならないで……ある日、容態が急変したんだ。それで、緊急でお腹の中の子を取り出すことになった」
子供は、まだ八ヶ月未満だったけれど、保育器に入れればまだ助かる可能性はあるって言われた。
問題は、母体の方だった。
「医者が、手は尽くしたんだけど……彼女は、そのまま」
最後の方の言葉は、掠れて小さくなっていた。
でも、それ以上は、もう分かっていることだから、聞かなかった。
「でも」
誠司さんが顔を上げた。
「その子供……栄太は、産まれた時は、本当に未熟児で、どうなるか分からなかったんだけど……今では特に後遺症もなく、元気に育ってくれてるから、それだけは本当によかったと思う」
誠司さんは、明るい声を出してる。
だけど、少し無理してるんじゃないだろうか。
確かに、栄太君が元気なのはよかったけれど……
だからって、それで全てが良かったとふっ切れるわけがない。
それが分かったから、私は悲しくて、何も言えなかった。