「でも、流石にしていいことではないし、慶太のことも考えたら、別れるしかなかった。向こうも、俺に対して冷めてたみたいだし」


事情が事情なだけに慶太君は誠司さんが引き取ることになったようだ。

私も、それでよかったと思う。


「離婚してからは、実家で暮らし始めて、俺が仕事の日のほとんどは、親に任せてるから、あんまり人のことは言えないんだけどさ」


「そんなことないよっ」

私が言ったと同時に鍋がぐつぐつといい出した。慌てて混ぜると、その音はなくなった。


「……誠司さんのは、仕事でしょ? 慶太君の為でもあるんだから、しょうがないじゃない」

鍋を見て、かき混ぜながら私は言った。


誠司さんは、自分を責め過ぎてる。全部が全部、誠司さんの責任というわけでもないのに……誠司さんは優しすぎるよ。


「そうでもないんだよ……本当に。……俺は――」

そこまでで誠司さんの言葉が止まった。


誠司さんの方を見ると、誠司さんは何か思いつめたような顔をしていた。


「……いいや。この話は」

首を横に振って、誠司さんはその話をやめた。


その続きがとても気になったけど、誠司さんの様子を見ていたら、聞くことはできなかった。


「それで、さっきの続き。……離婚して、二度目に結婚したのは、俺が二十五になる少し前。相手は、俺が今の店の前に働いてた店で、受付の仕事してたんだ」

彼女は、俺の一つ年下で、元々は美容師を目指してたらしい。

だけど、皮膚が弱くて、どうしてもそれを克服することができなくて、諦めたって言ってた。

でもやっぱり、この業界に携わって仕事がしたいからって、カウンセラーの資格とったりして、店の商品の販売とか、頑張ってたんだ。


……多分、俺はそういうところに惹かれてたんだと思う。