何も言えない私に、誠司さんは最初からちゃんと話してくれた。


「最初に結婚したのは、俺が二十一の時。相手は、俺がずっと付き合ってた彼女」


彼女は俺が高校の時の同級生で、付き合い始めたのは、高二の時。

同じ美容師という夢を持ってて、同じ専門学校に行って、頑張ってたんだ。

専門学校を卒業してからは、別の美容室で、お互いアシスタントとして働いてた。

だけど、これからというときに、彼女が妊娠した。


「恥ずかしい話、できちゃった婚なんだよね」

自嘲するように誠司さんは笑った。


正直、予定外の妊娠だったよ。だけど、俺は彼女のことが大事で、その彼女との間に授かった命を、堕ろそうだなんて思えなかった。


まだまだぺーぺーの新人で、給料も安くて、彼女や子供を養っていくには頼りない状況だったけど、不安がる彼女と、 いい顔をしない彼女の両親と、心配する俺の両親を必死に説得して、彼女と結婚した。

それから暫くして、子供が――慶太が産まれた。


彼女と子供と、家庭を作っていくために頑張って、美容師としての腕を磨いて、年々それが認められるようになって、三人での生活がやっと安定してきた頃……

彼女との関係が壊れ始めた。


「慶太が二歳になったばっかりの頃……急に慶太を実家に預けて出かけることが多くなってさ……気付いたら、他に男作ってたんだ」


「そんな……」

私が思わず声を出すと、誠司さんは黙って首を横に振り、俺が悪かったんだよ、と言った。


「彼女から子供ができたって聞いた時に、俺は彼女のことを考えてるつもりで、自分の理想を押し付けてただけだったから。俺が何とかするって言って、その通りに頑張ってたつもりだったんだけどさ、結局は彼女のことを縛り付けて、自由を奪ってただけだったから」


どうして、誠司さんが悪かったなんて言えるの?

子供をほったらかしにして、浮気した人を許せるの?


私には、誠司さんの言っていることがよく分からなかった。