誠司さんは冷蔵庫から小ぶりの圧力鍋を出すと、コンロに置いた。

蓋を開けると、カレーが入っていた。


「じゃあ、雛ちゃん、鍋見ててくれる?」


「うん」

誠司さんにお玉を渡されて、それで鍋の中身をかき混ぜながら鍋を火にかけた。


「じゃ、俺はサラダでも作ろうかな」

独り言のように言いながら、誠司さんは冷蔵庫からレタスやキュウリやトマトを出していく。


「うち、いつもは子供達は実家で晩御飯済ましてることが多いんだけどさ、今日は慶太がカレー食べたいって言ったから、昨日の夜に作っておいたんだ。カレーとか、簡単に作っておけるものの時だけは、一緒に食べることにしてるんだ」

野菜を調理台に置いて、まな板と包丁の用意をしながら、誠司さんは言った。


「本当は毎晩一緒に食べれるようにしたいんだけどさ、俺の仕事が終わる時間とか考えたらちょっと難しいから」


「そうなんだ……」


なんだか、いつもより誠司さんが喋ってる気がする。

私に、本当のことを言ったからだろうか。それだけ、心を開いてくれたってことなのかな……


「……ねえ、誠司さん」


「何?」

誠司さんはトントンと調子よくキュウリを切っている。


私は暴れだしそうな心臓を必死に抑えながら聞いた。


「誠司さんの……奥さんのこと聞いてもいい?」


誠司さんの手が止まった。


「……やっぱり、話さないとだめだよね」


「出来れば……話して欲しい。どうしても無理ならいいけど」


「そうだよね……」

誠司さんは苦笑している。


「俺自身、ちゃんと話そうと思って、うちに来て貰ったんだけどさ……だけど、今更何からどう話そうかとか、本当に話すべきことかどうか、迷ってさ……」


本当に悩んでいる様子の誠司さんを見て、私も少し聞くのが怖くなる。


「でも、いいや。話しちゃおう」

無理したように明るい声で誠司さんは言った。

私も何となく身構える。


「俺、結婚二回結婚したんだ。慶太と栄太は、母親が違う」


突然の告白に、私の思考はついていかなかった。