「……慶太君はいくつなの?」

暗くなってしまう思考を誤魔化すために、私は続けて聞いた。


「慶太ー。お姉ちゃんが聞いてるぞ。慶太は何歳って」

誠司さんが隣の慶太君をチラッと見て話しかける。


だけど、慶太君の反応はない。


「慶太ー?」

誠司さんが促してみると、慶太君はプイッと窓の方を向いてしまった。


「こら、慶太。……ごめん、雛ちゃん。いつもはこんなんじゃないんだけど……慶太はね、今四歳で、今年五歳になるんだ」


「へえ……そうなんだ」


……誠司さんはそういうけど、ということは、私って慶太君に嫌われてるってことなんじゃないかって、少しショックを受けた。




それからすぐに誠司さん達が住んでるアパートの駐車場に着いた。


車を停めて、誠司さんはシートベルトを外すと、まず隣の慶太君のチャイルドシートのベルトを外した。

外されると、慶太君は車の外に出る。


「雛ちゃんも降りていいよ」

「あ、うん」

誠司さんに言われて私は車から降りた。


車の外に出てみると、辺りの景観には何となく見覚えがあった。


「誠司さん。ここってもしかして四丁目?」

私が聞きてみると、誠司さんもちょうど車を降りて、後ろの席を開けているところだった。


「うん。そうだよ。雛ちゃんこの辺り知ってるの?」

誠司さんはそう言いながら体を屈めて、車の中の栄太君のチャイルドシートを外している。


「うん。私の家、割と近くだし……それに、昔この辺に幼馴染が住んでたから、しょっちゅう来てたの」

その幼馴染は、中二の終わりに引っ越していったから、もうそれ以来来てなかったけど。

まさかこんな形でまたこの辺りにくるなんて思ってもなかった。


「へえ。……よいしょっと。そういえば、雛ちゃんって家どこなの?」

誠司さんは栄太君を抱き上げて車のドアを閉めた。


「私、三丁目だよ」


「あ、そうなんだ。じゃあ、俺の実家とも近いんだね」


「うん。だからさっきちょっとびっくりしちゃった」


「そっかあ……世間って狭いもんだねえ」

誠司さんは和やかにいうけれど、私は本気で少し怖いくらいにそう思った。