「ねえ、誠司さん。栄太君はあんまり人見知りしないの?」
私は丁度慶太君との会話がキリがいいのを見計らって誠司さんに聞いた。
「栄太? 栄太の方がするよ。知らない人居たら落ち着かないみたいですぐ愚図るから」
「えっ。そうなの?」
誠司さんの答えが意外すぎて、私は驚いた。
人見知りするっていうわりには、落ち着いてるというか、泣き出しそうな素振りさえみせない。
それどころか、初対面の私に対して、ぬいぐるみを渡してくれたり、人懐っこさだってあるのに。
「うん。実は俺も何気にびっくりしてるんだ。栄太、愚図らないかなーって心配しながらだったから。でも、大丈夫そうでよかった」
ほっとした声で誠司さんは言った。
……本当なら、そんな心配する必要なかったのに。
「誠司さん……ごめんね」
私が小さく言うと、誠司さんがバックミラー越しにチラリと私を見た。
「何で雛ちゃんが謝るの? 元はといえば俺が悪いんだし」
「う~」
ぷきゅう~……
栄太君の声とぬいぐるみの音が私達の会話の間に入ってくる。
たったそれだけで空気が和んだ。
「ねえ、栄太君って何歳?」
話を変えて、私は誠司さんに尋ねた。
「この間十ヶ月になったところだよ」
「へえ……まだそんなにちっちゃいんだ」
そんな風に言いながらも、私は違うことも考えていた。
栄太君が十ヶ月ってことは、少なくとも十ヶ月前には誠司さんにも奥さんがいたってことなんだよね。
私が初めて誠司さんに会ったのが……八ヶ月前。
二ヶ月の間に何かあったんだ。
……それも、話してくれるのかな。
なんだか、聞きたくないような気もしてきた。


