「とうちゃん。あのひと、なに?」
私達の中に入ってきたのは、慶太君の声だった。
慶太君は、私のことを指差して誠司さんを見上げている。
「こら。指さすんじゃない。このお姉ちゃんは、父ちゃんのお店のお客さんだよ。島田雛子ちゃんっていうんだ」
慶太君の行動を叱りながらも、ゆっくりと丁寧な口調で話す誠司さんは、父親の姿そのものだった。
……ていうか、父ちゃんて。
誠司さんはどちらかというと『パパ』っていう雰囲気なのに。
だけど、その不自然さが自然になっているところが、二人が確かに親子なのだという証明になっているようだった。
「ふーん」
慶太君は相変わらず、私のことを顔半分で訝しげに見てくる。
ちょっと。
私は怪しくないって誠司さんが証明(?)してくれたでしょ。
「ごめん、雛ちゃん。慶太、人見知りするから……」
誠司さんがまるでフォローするように言った。
だけど、分かってるよ。
そりゃ本当に人見知りもあるのかもしれないけど、半分は不信感でいっぱいなのだろう。
いくら誠司さんの店の客だとても、何でここにいるのって感じだし。
……って。ちょっと待って。
私、今普通に誠司さんに店の客として紹介されちゃったよ。
慶太君に説明するためにそう言ったんだろうけどさ。
確かに、それでも間違えてないんだけどさ。
でも、せめて友達とか、もうちょっと近い関係にしてくれてもいいのに……
「とうちゃん、かえらないの?」
慶太君が誠司さんのジーパンを引っ張って言う。
「ああ、帰るよ。……えっと」
慶太君に答えた後、誠司さんの視線が私の方を向く。
そうだ。
まだ、根本的な話を聞いてない。
この状況で、何を言われるのか、何となくでも予想がつかないわけじゃないけど、誠司さんの口から直接聞いたわけじゃない。
白黒はっきりとしなければならない。
でも、誠司さんは言いにくそうにしている。
今は慶太君がいるからだろう。
「あ、雛ちゃん、うち来ない? ご飯でも食べていってよ」
誠司さんは思いついたように言った。