私は誠司さんの実家に行くつもりだったので、そのまま車で一緒に行くことになった。
慶太君は、助手席のチャイルドシートに座って、そのまま眠っている。
「本当にごめんね、雛ちゃん。慶太、重かっただろ?」
慶太君が眠っているので、声を小さくしながら、誠司さんは言った。
「ううん。大丈夫」
本当はちょっと辛かったけど、こうやって車に乗せてもらってる手前、そんな正直には言わないでおいた。
「公園で遊んでたって……何してたの?」
「キャッチボール。慶太君が剛司さんに貰ったってグローブとボール持ってたから」
私は自分の荷物と一緒に置いていた慶太君のグローブを顔の高さまで上げた。
「ああ、慶太の誕生日にやってたやつか」
バックミラーでちらっとこっちを見て誠司さんは言う。
「慶太、それでキャッチボールすごいやりたがってたんだけどさ、なかなか時間が作れなくて」
「うん」
「……なんか、雛ちゃんに先越されちゃったなー」
誠司さんはちょっと落ち込んだように、それでも楽しそうに言った。
「え? 何が?」
「子供の最初のキャッチボールの相手って、普通は父親だろ? ……何気に憧れてたんだよ。自分の息子とキャッチボールしたりするの」
ああ、そうか。よくいうもんね。
男の子が産まれたら、キャッチボールしたり、キャンプに行ったり……いっぱい遊びたいって。
「……なんか、ごめんね」
「え、何で謝るの?」
「何となく……悪いことしちゃったかなって」
今日のは偶然だったからといって、赤の他人である私が、勝手にこんなことをしてしまったのは、いいことだったんだろうか。