私とその子の間に、何だか不思議な空気が流れる。



そりゃ、この子からしたら私は変な人かもしれないよ。


自分の家の前に知らない人がいたら、そりゃ怪しむよ。

ましてこんな物騒な世の中なんだから、この子の判断は正しい。賢いくらいだよ。


だからって、私はそんなに怪しくないよ!?



……ってことを、この子に言っても無駄なんだろうな。

多分、怪しさが増すだけだろうし。


でもどうしよう、この状態。


何となく、目を逸らしたらダメなんじゃないかって思って、じっと目を合わせているけれど、向こうだって逸らさないし、じっと見つめあったまま。

でも、流石にこっちの方が怪しいよ。


出来ればさっさとこの場を去った方がいいのかもしれないけど、私は今誠司さんを待ってるわけだし……



……って、誠司さん!

早く出てきてよ!



そんな私の願いが通じたのか、やっと玄関の開く音がした。


「ケイタ! 勝手に先に外出たらだめだろ」


誠司さんの声だ。


私はほっとして声の方を向いた。


しかし、そこに居たのは、私が思い描いていた誠司さんの姿ではなかった。

いや、正確に言うと、誠司さんだけの姿ではなかった。


誠司さんの腕には、小さな赤ちゃんが抱かれていたのだ。


「あ……雛ちゃん」

誠司さんは私と目が合うと、その目を丸く見開いている。

多分、私もそんな顔してるんじゃないかと思う。



「とうちゃん!」

突然、私の目の前にいた男の子が声を上げて、門の中に走っていく。

そして、誠司さんのもとへ行くと、誠司さんの足にしがみつくようにして、その後ろに隠れる。



は……?

どういうこと、この状況……


ていうか、その子、今『とうちゃん』って、誠司さんに……


とうちゃんって……


父ちゃんって……


え……?


「せっ……誠司さん? どういう、こと?」

自分でも顔がひきつっているのが何となく分かる。


正気を保てる自信なんて、無いに等しかった。