「会いたかった。」
やっとの気持ちでそう言えたときには、もう彼の心が戻ってこないことを悟っていた。
受け入れることができないだけで、本当は、出会った瞬間に分かっていたのかもしれない。
『俺も。』
「うん。」
車は走り続ける。
静かなままでずっと。
『理瀬さんに会ったよ。』
「え?」
初めて2人で出かけたときに連れてきてくれた川辺、見せてくれた綺麗なオレンジ。
そんな思い出に浸る間もなく彼が言ったのは意外な一言だった。
『職場にあいつが来てるのを見つけて教えてくれたのは理瀬さんだった。』
「そうだったの?」
『それからずっと心配してくれてて、連絡くれたんだ。』
電話でも聞いていない話だった。
私の知らないところで私たちのことを心配してくれていた先生の優しさが、手にとるように伝わってくる。
『まだ、明日実のことが好きみたいだった。』
「そんなこと…」
今、言われても…。
彼の背中が遠くて、遠くて、手を伸ばすことさえできない。



