『元気だったか?』
「あ、うん。はるくんは。」
『あぁ、俺も元気。』
聞かなくても分かった。
はるくんと呼ぶことに違和感があった。
どうして電話で、声で、この変化に気付けなかったのだろう。
なんでこんなに、遠くに行ってしまったのだろう。
「はるくん。」
『ん?』
最後に会った彼と今目の前にいる彼とをうまく結びつけられない戸惑いを隠すように名前を呼んだ。
だけど続く言葉が出てこずに沈黙が流れる。
こんなに会っていなかったのだから、話したいことも話すべきことも沢山あるはずなのに。
『行こうか。』
自宅の玄関先で立ち尽くしたままの私の手をさっと握り、車へと歩き出す彼にただついていく。
車に乗り込んだ後も、もう私の居場所はここにはない気がして落ち着かなかった。
『どこか行きたいとこあるか?』
「初めて出かけた日に連れて行ってくれた、あの川辺に行きたい。」
『分かった。』
こんなに近くにいるのに見失いそうになる彼を、必死で繋ぎ止めようとしている自分が滑稽で哀れだった。



