『あの子じゃないですか?』
この辺りではないかと見当をつけてきた場所で椎野さんが声をあげる。
指差した先を見ると、スマホを両手で握って歩いている滝本さんがいた。
「滝本さん!」
すぐに車を路肩に寄せて声をかける。
同時に椎野さんが助手席のドアを開けて飛び降り、滝本さんを支えて乗り込ませた。
『先生…。』
「大丈夫、もう大丈夫だから。」
俺の顔を見た瞬間にぽろぽろと涙を流す滝本さんをただ見ていることしかできなかった。
どんな想いで俺に電話をかけてきたのか。
今まで感じていた恐怖を思うと苦しさで胸が詰まった。
「あれ?椎野さん?」
滝本さんを助手席に乗せたまま戻ってこないことに気付き慌てて周囲を伺うと、ひとりの男に向かって歩を進めていた。
岸井だ。
「ちょっと椎野さん!」
慌てて車を降りると同時に、椎野さんが岸井に思い切り飛び蹴りをお見舞いした。
あぁ…間に合わなかった。



