『落ち着いてられるか~!』


理瀬さんの手を払いのけてビールに手を伸ばす椎野さんに、なぜか心が軽くなるのを感じた。

俺がこんな風に怒りを表せば、彼女はきっと怯えてしまう。

だからずっと、とにかく穏やかに過ごすことを考えてきた。



「ありがとう。そんなに怒ってくれて、なんかすっきりしました。」

『青井くん、今、滝本さんは…?」

「あいつが来てから、ずっと会ってません。連絡は毎日とってるんで元気だとは思うんですけど…。」

『なんで2人が会えなくなってるんですか?おかしいよそんなの!』


はいはいと慣れたように椎野さんをなだめる理瀬さんの表情が、深い苦しみに染まっていた。

気付かなければ良かった。



『理瀬さん…?』


熱くなっていた椎野さんもその表情を見たのか、さっと顔が曇る。


この2人は恋人同士ではないんだ。

そして理瀬さんは、今も…。



『これはちょっと…事情が変わってきたな…。』


ぽつりと椎野さんがつぶやく。

その事情が何なのかは分からないけれど、もしかしたら椎野さんは理瀬さんから彼女のことを聞いているのかもしれない。