「あーやっちまった。」
バラバラに割れてしまったお皿の破片を拾おうとしたとき、俺よりも先に彼女がしゃがみこんだ。
「いいよ俺がやるから……明日実?」
破片を拾おうとしてくれたと思い声をかけたけれど、彼女はその場にうずくまったまま動かない。
鼓動が、一気に速くなった。
「明日実!」
傍に行って抱き寄せると、彼女は浅く呼吸を繰り返しながら頭を抱え込んだ。
耳を塞ぐその手が震えている。
「ごめんな、びっくりしたな。大丈夫。大丈夫だから。」
過去の話をしてくれたときの彼女を思い出す。
あのときもこんな風に、浅い呼吸をしていた。
大丈夫、ちょっと叩かれたりとか、それくらい。
あのときの声が、無理に作った笑顔が、一瞬で脳裏によみがえる。
本当はそれくらいなんかじゃなかったことは、あのときに感じていた。
ガシャンと大きな音を立てて割れたお皿。
今彼女が思い出してしまった光景を、恐怖を、すべてひっくるめて俺が受け止めたいのに。
どれだけ抱きしめても、その腕は本当に無力だった。



