「明日実、近いうち花見行かないか?」
『お花見?』
自宅キッチンで料理をする彼女の後ろ姿に声をかける。
彼女が持ち込んだ調理道具で、何もなかったキッチンはすっかり彼女仕様に変わっていた。
「もうだいぶ咲いてるしさ、今度の土曜とかどう?仕事終わってからだから夜桜になっちゃうけど。」
『土曜は、ちょっと…』
「何か予定あった?」
『うん。その日は通院の日で。』
振り返らずに言っても、申し訳なさそうな表情をしていることが簡単に分かる声。
彼女の通院は1ヶ月に1度だが、それがいつなのか、彼女はいつも言わない。
「そっか。なら仕方ないな。」
『ごめんね。』
「気にすんなって。」
彼女が野菜を切る音だけが部屋に響く。
相変わらず背中を向けているその先の表情が気になって、そっと傍へ行く。
「病院までいつもどうやって行ってるんだっけ。」
『送ってもらってるの。少し遠いから。』
「じゃあ今度から俺が送ってくよ。」
『え?』
やっとこっちを見てくれたけれど、どこか苦しそうな表情と目が合った。



